ヴィーンの市役所

Last-modified: Sat, 17 Jul 2010 15:16:00 JST (3013d)

 執務している場所には用事がないから入ったこともないが、前庭や広場、中庭などには何度も行ったことがある。日本の市役所よりもずっと親しみ易い印象で、年間を通していろいろな催しにも使われている。

 夏の観光シーズンには、この前庭の一角に様々な国の料理の屋台が所狭しと並んでいた。ガスや水道などもちゃんと使えるようになっているから、毎年やっていることなのだろう。夜になると正面に設置されている巨大なスクリーンを使って映画が上映される。なかなかの人気で、かなり壮烈な席取り合戦に遭遇したこともある。勿論露天だから雨になると中止である。

 広い中庭では演奏会もよく行われるようで、ここで聴いたシュランメルンはまさに本場の味わいだった。 秋になってからは、広場に巨大な中国国立サーカスのテントが張られて、かなりの期間公演が行われていた。

 一番印象に残っているのは、12月に入るとすぐ始まったクリスマス用品の販売である。露店には違いないがかなり立派な木の骨組みで組み立てられていて、それぞれが長く繋がった露店の列がまた何列も連なっていて、それらがすべてクリスマス用品を売っているのだから壮観である。庭園のもうすっかり落葉している広葉樹の枝にも様々な飾り付けがしてあり、どういうわけか日本の奴凧まであった。ヴィーンの人たちにとってはクリスマス用品の露店がこの程度の規模で林立するのは当然のことなのかも知れないが、異教徒の私にとっては驚きであり、オーストリアは90%がカトリック教徒のお国柄なのだということが如実に実感できた。

 ここでランゴスの味を初めて知った。ランゴスというのはピザの台だけを油で揚げたような物で、厚みはそれほどではないが直径はかなり大きい。揚ったばかりのアツアツのそれにパラパラッと塩を振りかけただけのものだが、そのうすい塩味がなかなか良い。お好み焼き風なソースを塗ってくれる店もあるが、これはそれぞれの好みだろう。

 初めのうちは熱くて、包んでくれた厚手の紙にくるむようにしてフウフウ吹きながら食べ始めるのだが、そのうち直ぐ熱くなくなって、半分も食べないうちに冷たくなってしまう。ランゴスを食べながらヴィーンの冬の冷たさを体感できるというわけだ。

 1995年の5月5日には、ヴィーン芸術週間の開始式典がこの市役所前広場で行われた。中央の塔の正面に特設されたステージの前では、開始時間のかなり前から若者が敷物を敷いて車座になり、ちょっとした宴会をやっていた。場所取りと待ち時間の有効利用というわけだろう。飲み物や食べ物の店もかなり出ていて、綿飴やランゴスの食べ歩き、ビールやジュースの飲み歩きも多く、縁日そのもの。出し物がズービン・メータの指揮するヴィーンフィルほかの演奏する、シェーンベルクの「ワルソーの生き残り」であり、ベートーヴェンの「第九」であるところが、ヴィーン風な縁日の特徴なのだろう。

 ヴィーンの市役所はネオゴシック建築で中央の塔は市内の何処からでもよく見えるが、教会の塔よりも市役所の塔の方が高いのは僭越だということで、当初の設計を変更して、シュテファン寺院の南塔よりも少しだけ高さを控えてあるのだそうだ。