市立時計博物館

Last-modified: Sat, 17 Jul 2010 12:10:03 JST (2837d)

  ヴィ−ンの1区、その中央に位置するシュテファン寺院からもさほど遠くない北西の方角にある広場に面して、アム・ホ−フ教会というのがあり、この教会の裏手のあまり目立たない建物に、市立時計博物館という小さな博物館がある。

 入り口で案内を乞うと男性が出て来て、ついて来いと言って階段を登って行った。日本流に言う2階(3階だったか)からが博物館になっていて、その人が自分で鍵を開けて中に入れてくれた。閑散としていて我々以外には見学者もなく、この博物館に常駐しているのはその男性一人だったのではないだろうか。

 かなり広い部屋の中に実に様々な時計が処狭しと並べられていて、17、18世紀あたりを中心に作られたそれらの時計の大部分が、今も現役として時を刻んでいた。但し私の見た感じでは、天文時計は構造が複雑な為かあまり動いていなかったようだ。時報は鳴るのかと聞くと鳴ると言うので、それに興味を感じて家内と二人、3時を待った。

 人間にもせかせかした奴もいるしゆっくりした奴もいるが、そもそも旧式なゼンマイ仕掛けで動いている彼等だから現代の電子式の時計のような正確さはないわけで、とても一斉には鳴り出さない。

 やがてかなり気の早い奴が一つ、やや渋い音で3時を報じた。暫くしてからもう一つが、そして次第に数を増して、様々な音色と大きさでそれぞれが3時を知らせた。案内してくれた館員の男性はニコニコしながら我々の様子を興味深げに眺めていたが、私が「素晴らしい!」と言うと、かなり大きな仕種で同意を示して頷いた。毎日そこに勤務しているのだろう彼にとっても、大小様々な沢山の時計たちがかなり自分勝手な判断で時を告げるのを聞くのは、きっと楽しい時間だったのだろう。

 彼等の時報は始まった時とは逆のカーヴを辿って次第にまばらになり、最後に、相当にのんびりした奴が鐘を3つ鳴らして終わりになった。寄席で落語を聞いていて、噺家が舞台の袖に引っ込んだ頃にオチの意味が判って一人遅れて拍手するような、そんなユーモラスな感じだった。