最初期の作品 ヴァイオリンソナタ

Last-modified: Sat, 08 Sep 2012 22:18:09 JST (2287d)

ヴァイオリンソナタその1 <K6〜K9>

 <ヴァイオリンソナタ>と書くとヴァイオリンが主役であるような印象が強くなるが、この項で扱う<K6〜K9>は、ピアノソナタにヴァイオリンの助奏が付いたものであり、ヴァイオリンパートは除去しても大きな損失はない。「ヴァイオリンの助奏を伴っても演奏できるピアノソナタ」というこの曲集の趣旨は、当時の家庭音楽の状況に見合うものであり、この曲集の出版と販売は、一家の旅行費用の捻出にもいくらかは役立ったものと思われる。なお、以後の多楽章形式の曲の譜例は、原則として第1楽章の冒頭のみを示すこととする。

 K6、K7は1764年の2月に王女ヴィクトワール(Victoire)に献呈されて、作品Ⅰの1及びⅠの2としてパリで出版されたものであり、K8、K9は1764年の4月にテッセ伯爵夫人(de Tessé)に献呈されて、作品Ⅱの1及びⅡの2として同じくパリで出版されたものである。この為この4曲は、出版された都市の名をとってパリソナタと通称されることが多いのだが、作曲されたのはそれ以前に由来する部分もかなりある。

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 K6の第1楽章は1763年の10月14日にブリュッセルで、第2楽章と、第3楽章の第1メヌエットも恐らく10月にブリュッセルで、第3楽章の第2メヌエット(トリオ)はもっと以前、1762年の7月16日にザルツブルクで、いずれもピアノ独奏曲の形で作曲されていたものである。第4楽章だけはパリ到着後に作曲され、全楽章にヴァイオリンの助奏が付けられて全曲が完成した。K9までの4曲のパリソナタのうち、この曲だけが4つの楽章を持っており、出版される最初の曲らしい意気込みが感じられる作品である。

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 K7の第1メヌエットは、1763年11月30日に、ピアノ独奏曲としてパリで作曲されていたもの。1764年になって作曲された他の部分とともに、現在の形にまとめられた。

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 K8の第1楽章は、1763年11月21日に、ピアノ独奏曲としてパリで作曲されていたもの。1764年になって作曲された他の部分とともに、現在の三楽章の形にまとめられた。

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 このK9だけが、恐らくはこれら4曲の出版が決まってから、1764年になってパリで作曲されたと思われる。短い期間に複数の同種の曲を作曲する場合、モーツァルトは一曲毎に目に見えて進化する。特にこの曲の場合は、ヴァイオリン付きのソナタとして出版することが決まってから作曲されたものだけに、ピアノに力点を置きながらも、ヴァイオリンの動きにもかなり配慮している。ケッヘル300番台から始まる真の二重奏ソナタの片鱗が早くも現れていると感じさせられるのである。

ヴァイオリンソナタその2 <K10〜K15>

 パリで出版された<K6〜K9>がパリソナタと呼ばれているのと同様に、<K10〜K15>の6曲のヴァイオリンソナタは、やはり出版された都市の名をとって、ロンドンソナタと通称されている。イングランド王妃シャーロット(Charlotte)に献呈され、作品Ⅲとして出版されたこの曲集は、当初から2種類の演奏形態で伝えられて来たようだ。一つは『<ヴァイオリンまたはフルート>とピアノの為の』という二重奏の形で、もう一つは、これにチェロを加えた三重奏の形でなのである。新全集では「Sonate für Klavier, Violine (oder Flöte)und Violoncello」という形の三重奏曲として分類されているので、「BA 4545」の書籍番号を持つピアノ三重奏曲の巻に入っている。

 ただ、チェロのパートは殆どピアノの左手、すなわちバスパートの重複で独自性はないので、実際の演奏あるいはレコードやCDでは、チェロを除く二重奏の形も多く、旋律を担当するのも、ヴァイオリンであったりフルートであったりする。また、本来はピアノが旋律を持っている部分をヴァイオリンまたはフルートが演奏するなど、かなり自由な役割分担の変更が行われている場合もある。それぞれの曲種や楽器が独自の性格を持つようになる中期以後の作品では考えにくいことだが、この時期の、すなわち最初期の頃の作品では、楽器の変更も含めて、ある程度の自由は認められて良いと考えている。

 私がこれらのロンドンソナタを初めて耳にしたのは、ランパルのフルート、ラクロワのチェンバロという取り合わせのエラートのLPレコードだった。録音が1963年の3月だから、初めて聴いたのも恐らくこの年だったろう。今はこのレコードのCD版(WPCC-5032)で聴いているが、その後入手したあわせて4種類の組み合わせ(ヴァイオリン+ピアノ、ヴァイオリン+ピアノ+チェロ、フルート+ピアノ、フルート+ピアノ+チェロ)の中で、今でも一番愛着を持って聴いている演奏である。

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 エラートの場合、旋律の扱いでフルートがやや優位に立っている感じがする。  

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 この曲の特徴は、2、3楽章の構成の面白さであろう。

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 第1楽章の、旋律の掛け合いの巧みさ、面白さが目立つ。

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 後年の名曲「フルート四重奏曲 K285」を想起させるような、第2楽章の旋律のゆったりとした動きが特に印象的である。

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 各楽章がそれぞれに充実していて、少年作曲家の急速な進歩を感じさせる。

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 第1楽章の、モーツァルトとしては少し古めかしさを感じさせる、バロック的で分厚い響きに対して、第2楽章の、煌めきわたるような快活な響きが鮮やかな対照をみせる。6曲の連作の締め括りに相応しい佳曲である。

ヴァイオリンソナタその3 <K26〜K31>

 <K26〜K31>の6曲のヴァイオリンソナタは、やはり出版された都市の名を冠して、ハーグソナタと呼ばれており、1766年4月に作品Ⅳとして出版され、ナッサウ・ヴァイブルク侯妃(ヴィレムⅤ世の姉)に献呈された。ロンドンからパリに向かう予定だったモーツァルト一家がオランダに回り道したのは、当時のオランダ総督ヴィレムⅤ世に懇望された結果だと言われている。アムステルダムあるいはデン・ハーグでモーツァルトは、ピアノの項で既述したK24及びK25の2つのピアノ変奏曲、次のオーケストラ曲の項で述べるK32の「ガリマティアス・ムジクム」なども作曲している。

 これらの曲は『ヴァイオリン伴奏付きのピアノソナタ』というのが正式な名称なのだが、K6〜K9の『ヴァイオリン伴奏付きでも演奏できる』ピアノソナタとはややニュアンスが違って、ヴァイオリンパートを取り外しては具合が悪い部分が幾らかある。その意味で、ヴァイオリンとピアノとが対等な立場で語り合う、二重奏ヴァイオリンソナタの形に一歩近付いていると言えよう。

 モーツァルトが次にヴァイオリンソナタを作曲するのは実に12年後、22才の時であり、当然と言ってしまうにはあまりにも驚異的な飛躍を感じさせる。これらは旧番号でK301からK306の6曲でありパリで出版されたのだが、面白いことに、K6、K7が12年前に作品Ⅰとして出版されたその同じパリで、やはり作品Ⅰとして出版されたようだ。どうしてそんなことになったのか、私は知らない。

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ヴァイオリンソナタその4 <K46d、K46e>

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 この2曲をヴァイオリンソナタの範疇に入れるかどうかについては、意見が分かれている。新全集は高音部譜表がヴァイオリン、低音部譜表はチェロという判断で弦楽二重奏の範疇に入れているのだが、ヴァイオリンと通奏低音(鍵盤楽器)である可能性も否定してはいない。私の持っているCDも、チェンバロとヴァイオリンの二重奏になっている。


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